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由良【episode7】〜永久U(とわ)〜









旧校舎の非常階段横にさしかかったとき、私はありえない光景を目にした。


そこには、非常階段に腰掛けた女生徒がグビグビとカクテル缶・・・つまりはアルコールを飲んでいるのが見えたのだ。


長い髪を頭の両サイドに高い位置で縛り、眼鏡をかけたその顔は、美少女とも言える風貌だった。


そして、その顔には見覚えがあった。


同じクラスになった事は無かったが、確か同じ学年の女子だったと思う。


成績も良く、素行も良く、優等生だと言われているはずだ。


呆然と見つめる私と目が合うと、彼女はたいして驚いた様子もなく、「あら、おはよう。」


と言った。


「な・なにを・・・」飲んでいるのですか!と問う前に、


「気にしないで。こんなのジュースよ」


全く何事も無いように言いながら、彼女はまたカクテル缶に口を付ける。


「や、やめなさい!」


慌ててそのカクテル缶を取り上げると、私は中身を捨てた。


ほとんど残っていなかったそれは、地面に落ちると微かに泡を立てて消えた。


「あーあ、もったいない。」


つまらなそうに言う彼女をキッとにらんで、叱り付けた。


「未成年が、飲酒をしていいと思ってるんですか!」


「法律じゃあ悪いって事になってるわね。

 ・・・誰かが勝手に決めた法律じゃあね。私の許可を取らないなんてミスもいいところだわ。」


本気でそう思っているかのように彼女が答える。


「法律もそうですが、身体に良くないから言ってるんです。まだ肝機能だってアルコールを充分に分解できな・・・」


「そんなの、個人差でしょ?アルコールを分解できない人は大人になっても出来ないし、出来る人は、未成年でも出来るのよ。」


私の言葉をさえぎって、彼女が言う


「そんな訳無いでしょう。第一、あなたはまだ成長期なんですよ?脳や神経細胞への影響だって大きい、

 それに、アルコール慣れしてない分、依存性だって高いんですよ!」


依存性、という言葉に彼女はピクン、と反応して、宙を見上げると


「依存性か・・・、そうか、そういうのも、あるのね・・・」


と言った。


「まったく、あなたって人は、そういうのも、じゃないでしょう。大体、身体への影響についてもっと・・・」


尚も説教を始めようとする私をまたさえぎって彼女が声を上げた


「ねえ。」


自分のペースで話を進めることを諦めた私は、彼女の問いに答えることを優先した。


「・・・はい、なんですか。」


「もし、あなたの、大事な人が、同じ事をしたらどうする?」


質問の内容とは裏腹に、とても真剣な彼女の眼差しに、私も真剣に答えた。


「叱ります。大事な人ならなお更です。」


「そう。それでも私みたいに言うことを聞かなかったら?」


「だったら、分かるまで話します。

 自分のした事の重大さに気付くまで、きつく叱る事もあるでしょう。

 絶対にそのままにはしません。」


「そうか、西篠くんの大切な人は幸せね。」


そう、うつむいて寂しそうに微笑む彼女が私の名前を呼んだのに驚いて


「私を知ってるんですか?」思わず聞くと、


「知ってるも何も、生徒会長で学園のアイドルなんだから、知りたくなくても入ってくるわよ。」


と、結城にでも言われているような返答が帰って来た。


「・・・で、あなたの名前は。」


「私?そうね、くるみ原 とわよ。」


「それ、本名じゃないでしょう・・」


「あら、分かった?」


そう言って彼女はにっこりと笑った。


初めて見る彼女の笑顔に思わず鼓動が早まった。


今思うと、これが初恋と言うものだったのだと思う。


「さてと、私はもう行くわ。先生に言いたかったらお好きにどうぞ。」


彼女はそう言うと、スタスタと歩き出した。


「待ちなさい!」


彼女の手を掴んだ私に、彼女は先ほどとは違う、少し寂しげな笑いを浮かべて


「私ね、今日転校するの。HRで挨拶をしたら終わり。」


まるで自分を嘲笑うかのように彼女は続けた。


「父が蒸発したから、離婚した母の元に行くのよ。

   って言っても、母はもう死んじゃったから、本当は母に引き取られた姉のところに行くんだけど。」


たいした事でもないように淡々と話す。ただ、その姿が妙に痛々しくて私は彼女から目が離せなかった。


「そうそう、あの、カクテル缶ね。父が唯一残した物だったから、飲んでやろうと思ったの。」


「ねぇ、可哀想だと思った?」そう悪戯っぽく笑いながら彼女は続けた。


「父が残した唯一のものだから今日ここで飲んでやろうと思ったってのは本当よ。

 だけど、お酒は本当に好きで前から飲んでたわ。ちゃんと自分の飲める量も知ってる。

 だから、私が可哀想だからって先生に黙ってる事はないわ。」


そう言ってにっこりと笑う彼女を私は思わず抱きしめていた。


「そうやって、辛そうに笑わないで下さい!」


抱きしめた彼女の肩は、華奢で壊れてしまいそうで。


高校生になって凄い速さで成長した私には彼女の身体は壊れてしまいそうなほど頼りなく感じ、


抱き壊してしまうのではないかと思うほどだった。


そんな私に、彼女は静かにこう言った。


「あら、私辛くなんかないのよ。これでもとても機嫌がいいの。今日、あなたと話が出来たもの。全くの予想外だったわ。

 それにね、お酒はとおぶん辞めるわ。依存したくないから。好きなものを現実逃避の道具にしたくないだけ。」


「本当ですか?」


「本当よ。」


「自分を大切に出来ると誓いますか?」


「・・・うーん、難しいけど、誓うわ。」


「分かりました。では、今回の事は、他言しません。・・・でも!」


「もし、約束を破ったら、どうなるか、少しだけ覚えていただきます。」


まだ抱きしめたままの彼女の背中を動かないように固定すると、私は彼女のお尻をスカートの上から10打った。


「やだ!痛い!痛いってば!ちょ、ごめんなさい!もうしないから!」


10打つ間に、彼女はそう叫びながら身悶えた。


お仕置きを終えて、彼女を解放すると、少し涙目でお尻を押さえながら、彼女は


「西篠君って意外と激しいのね。西篠君の大切な人に少しだけ同情しちゃうわ。」


「それはどうも。」


「でも、ちょっと羨ましいけど」


「だったら、彼女になりますか?」


半分本気でそう言うと、


「ふふ、それは辞退するわ」彼女はあっさりとそう言って笑った。


「それにね、あなたに大切な人が出来るのは、まだまだ先よ。そしてね、私なんかよりずっとお転婆で頑固者よ。」


「・・・は?」


思わず聞き返す私に、


「うふふ、わたしそういうのなんとな〜く分かっちゃうの。

 じゃあね!もうすぐ姉と義兄が迎えに来るから行くわ。それに、今日、姪っ子にも会うのよ!」


そう嬉しそうに笑うと、彼女は駆け出した。


その日の、少し強い風のように、彼女は私の前から姿を消し、


彼女の本名が 遠野 美夏(とおの みなつ)と言うのだと彼女と同じクラスだった結城に後で聞かされた。


結局、その後、彼女に会うことは無く、その一年後、駆け落ちしていた清彰様が瀕死の重傷で戻られて、


彼女との思い出はゆっくりと生活の中に溶けていった。





清彰様が戻られたのと時を同じくして、彼女の姉が交通事故で即死し、


17歳の彼女はまだ3歳の姪っ子を一人で育てる事になる。







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そして・・・それから12年、その姪っ子は私の傍で寝息を立てながら眠っている。



そっと、薄手の毛布をかけてやりながら、由良様のさらさらとした髪を撫でる。


部屋を見渡すと、不意に、写真の中の遠野さんと目が会った気がして、私はそっと語りかけた




「・・・あなたには言いたい事がいっぱいありますけど、


 あなたの12年は、幸せだったのですね。由良様を見ていたら分かります。


 由良様を本当にいい子に育ててくれて、ありがとうございます。」



・・・でも、いつか天国で会った時には、しっかりと叱らせてもらいますから、そのつもりで。そう言って私は破顔した。



写真の中の彼女は、あの時の、眩しいほどの笑顔をたたえたまま、いつまでもこちらを見ていた。




















はい、リンと叔母さんのエピソードです。^^
さり気に重いお話なのですが、美夏さんの性格と由良が随分救いになってる感じです。^^;
未来がなんとなく見えてしまってた美夏。ただ、万能ではなかったようで、この日、リンと会う事も
・・・ましてお仕置きされることも見えてません。(笑)
だからこそ、美夏は生きていけたのかも知れません。
そして、この日リンと会えたからこそ。
さりげに由良は美夏のおかげで能力に免疫があったという前ふりだったり・・・(笑)
次回、BJと清彰、もしかしたら『あいつ』が登場予定w


さて、実はおまけがあるので、下のおまけボタンからポチっとどうぞ。^^






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