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由良【episode6】〜覚醒U〜







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AM 8:00



「それで?由良が覚醒したと・・・?」



電話の向こうで清彰(せいえい)様が憮然とした声でそう言った。



「・・・ええ。すいません。ですが恐らく、先代の由羅様のお部屋に行かれたときから既に覚醒していた様です。」



電話の向こうでため息が聞こえる。



「リンが謝ることは無い。人、一人の命が救われたんだからな。それにしても、まさか私の能力を受け継ぐとは・・・。」



更に大きなため息をついて、清彰様が言う。





・・・無理もない・・と思う。


誰よりも清彰様自身が由良様の覚醒を恐れていたのだから。


現在、15歳になる由良様はまだ覚醒されていなかった。それを誰よりも喜んでいたのは清彰様だった。




鴻上(こうがみ)家の能力者は基本的に能力者の家系の者と結婚する。


それは、鴻上家の持つ力を絶えさせないためだった。


だが、長い年月を経て鴻上家の当主となる程の力を持つ能力者は減り、


清彰様が由良様の母上となる女性と出会い、結ばれた頃、既に直系の血は清彰様が最後になっていた。



・・・鴻上家の世継ぎ問題は、水面下では世界的問題にもなっている。



その為に、最愛の女性と添い遂げられなかった清彰様は、世継ぎ問題を恨んでおられるのだ。



だが、由良様は覚醒されていなかった。能力者の家系の者との間に出来た子供ではないのだから、


それはおかしい事ではない。現に、昔、能力者以外と結婚して普通の子供が生まれた例はある。


それは清彰様にとっては相当な救いだったと思う。



私自身、由良様は覚醒することは無いかも知れないと思っていた。



・・・鴻上家の能力者はもっと幼い頃に覚醒するはずなのだ。



だが、ついに由良様は覚醒された。





覚醒しているのかも知れないと感じたのは由良様が私の部屋のドアを弾き飛ばした瞬間だった。



人ならざる力・・・・不意に感じた大きな力に私は目を疑った。



そして、夢を見たのだと聞かされて内心かなり動揺した。


まさかと調べてみると、行方不明者リストに由良様の言う名前があった。


みすみす彼を死なせるわけにはいかないという思いと、由良様の力がどれほどの物なのかということを確かめるために


由良様をもう一度夢に誘う(いざなう)事にした。



私に備わった特殊な力・・・



相手の、能力に同調して共に飛べる力



・・・昔、清彰様と共に思念体となって現世を飛ぶ事もあった。


その力を使うことにしたのだ・・・。



夢の中では相手の気持ちや記憶を共有出来る。



・・・相手が私を拒まない限り。



由良様はJoseph(ジョゼフ)を救いたい一心で私を受け入れてくれた。


そして、船の位置、ジョゼフの妻と子供の位置、太陽の位置、陸地の位置、などから割り出して救援を申し出た。


最初に連絡を取ったのはFBIの捜査に協力すべく渡米している清彰様だった。


今は無理だと渋るむこうの捜査官に、由良様のことは極秘だったので、苦肉の策に出ることにした。


ならば、すぐに「Y=vと書いて見せるように!見せないと大変な問題になりますよ!


と伝えると、10秒と空けずにに清彰様が電話に出た。



「由良がどうかしたのか・・・・!!」と叫んで・・・・いや、極秘・・・であるはずなのだが・・・




由良様の見た夢と、ジョゼフの件だけを話すと、



「・・・分かった。」



清彰様はそう言って、すぐに救援の手配をして下さった。


それから、2時間半後、Joseph Ryan は救助された。


あと数時間遅ければ死んでいたかもしれないと診断されたそうだ。


そして、今に至る。




「・・・だが、こうなったら、もう、覚悟は出来ている。」



「覚悟・・・ですか?」



びっくりして聞く私に、



「絶対に由良が子供を生むか老衰で死ぬまで生きてやるからな・・・!

 由良は絶対に当主にはしない・・・!私一人で充分だ・・・・私一人で・・・」



鴻上家の当主は、基本的には一族内で最も能力の強いものが選ばれるが、前の当主が存命の内は


当主の交代は行われない。



また、当主になる前の女性は子供を生むと力がなくなる場合があるから、


それまでは何が何でも守るという覚悟なのだろう。・・・本当に清彰様らしい・・・。



「ところで・・・リンはまだ由良を当主にしたいのか・・・?」



いつになく、小さな声で、清彰様が訊いた。



「いえ。由良様が元気で笑っておられるのが今の私の望みです。」



あまりにも自然に出た自分の言葉に思わず苦笑する。


自分でも意外な事だが、鴻上家の教育係となるべく今まで修行を積んできたこの私が、


今は本当に由良様の為であれば、覚醒などしないで欲しいというのが正直な気持ちだった。



「ただ、厄介だな。リンの話だと、由良の力は強すぎるな・・・

 ・・・あいつが気付くのも時間の問題かも知れないな・・・。」



「は・・・?あいつ・・・ですか?」



思わず出た清彰様の言葉にそう尋ねると、「いや、なんでもない。」とはぐらかされた。


まだ、私の知らない何かがあるのだと言うことだろう。



「とにかく、リン、由良を頼む。出来るだけ早く捜査を終わらせてBJとそちらに戻る」



BJと言う言葉に思わず眉をひそめる。



「あの方もご一緒なのですか・・・」



BJとは、清彰様の仕事上のパートナーで、・・・その、とにかく変わった人なのだ。



「ふふ、リンはBJが苦手だからな。BJはリンが大好きなんだそうだが。

 好きすぎてお前をからかいたくなるんだそうだ。少し多めに見てやれ。」



明らかに笑いを堪えている電話の向こうの清彰様に少し憮然とした声で



「帰ってこられる前には必ずご連絡くださいね。あなたはいつも突然なんですから。」



そう伝えると、



「ああ、分かったよ。では、私はそろそろ戻るが、リン、・・・由良を頼む」



電話の切れる音がして、私は携帯を置いた。



私のベッドの上では由良様がぐっすりと眠っている。


デスクの上のノートパソコンにはジョゼフが助かったニュースが大きく表示されている。


初めてであんな力の使い方をしたのだから、かなりの消耗をしているはずだ。


しばらくは起きることもないだろう。




・・・あいつが気付くのも時間の問題かも知れないな・・・


不意に先ほど清彰様が言いかけた言葉を思い出す。



清彰様が隠そうとする程だから、おそらく何か問題があるのかもしれない。



幸せそうな寝顔を浮かべる由良様を見ながら、・・・大切なこの方を守るには、


私では力が足りない・・・そう感じる自分にため息が漏れる。



目が覚めたら、由良様も自分の力と向かい合わなくてはいけない。



それがどうか、由良様にとって辛い事で無ければいい。



祈らずにいられない気持ちで目を閉じると、



不意に「大丈夫よ。」と、あの、由羅様の声が聞こえた気がした。


慌てて目を開けると、そこには風に揺れるカーテンが映るだけだった。




・・・由良様が来てから、この屋敷の時が動き出した気がしていた。


先代の、由羅様を近くに感じることも時々あった。



・・・何かが変わりだしている。



ただの直感でしかないが、多分、いい方へ。



ひょっとしたら、由良様は鴻上に新しい風を起こしに来たのかも知れない。


あの方と同じ名前を持つこの方なら・・・。







「由良様・・・いつまでもお守りいたします。」




由良様の寝顔にそう誓うと、私は目が覚めた由良様のためにケーキを焼きに行くことにした。



・・・キャロットケーキであることは由良様には内緒にしておこう。





















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