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由良【episode6】〜覚醒V〜









15:00




昼下がりのリンの部屋で。



目覚めた私は、ソファーに腰掛けてぼんやりとTVを見ていた。


ベッドの上からカメラに向かって一生懸命話すジョゼフを見ながら、リンの焼いたケーキをひとくち、口に入れた。



『・・・ええ、妻や娘の事を思いながら、どんどん意識が薄れて、


もう、諦めようと思っていました。その時、私は見たんです!


突然、天使が現れたんですよ!可愛い女の子のような外見をしてましてね。


そして、「コラ!ジョゼフ!弱気になるな!生きなきゃ許さん!!」と凄い剣幕で叫ばれて。


それで、なんとか意識を取り留めたんです。


あの、ギャング・エンジェルのおかげで今生きているのかと思うと、感謝したい気持ちでいっぱいで、


すぐにでもギャング・エンジェルにお礼を言いたくて、インタビューに答える事にしたんですよ・・・・』




・・・とにかく、今分かるのは、字幕にあるギャング・エンジェルとやらが私だって事と、


ジョゼフが助かってインタビューに出てるってこと・・・



「コラ!ジョゼフ!弱気になるな!生きなきゃ許さん!!」とまた、迫真の演技で語るジョゼフのシーンがリプレイで放送されている。



「・・・私、こんな言い方してないもん・・・。」大体、英語で言った覚えも無い。



思わず憮然としてそうつぶやくと、紅茶を入れていたリンが笑った。



ムッとして睨むと、困ったような顔をして、リンが隣に座る。



「さて、何からお話してよいやら・・・。」



困った表情のままリンがそう言った。





今朝、夢に見た事が実際に起きていたことだと全国ネットで知らされて、私はただただ、呆然としていた。



「私に叔母さんみたいな力があるなんて、知らなかった・・・。」


ため息混じりにそう言うと、リンは「は・・・?」と呆気に取られたように言った。



「私の叔母さんね、ちょっと変わった人だったの。何でも先にあることが見えちゃうんだって言ってた。

 だから、由良にもそういう力があるかもねってよく言われてたの。」



そう話すと、リンは急に大変な事が起きたみたいに取り乱し、私の肩を掴んで、



「詳しく教えてください!」と言ってきた。



「・・・ねぇ、リン、その前に、私、1度家に戻りたい。」



色んな事がありすぎて、すっかり後回しになっていたけど、もう3日も家に戻っていない。


急にそう言いだした私に、リンは困った表情をまた浮かべて、でも、「・・・わかりました。」と言ってくれた。



「・・・ごめんなさい。荷物だって思い出の品だって、自分で取りに帰りたかったの。

 それに、昨日と今日は土日だったけど、金曜は結局学校無断で休んでるし・・・」



そう言うと、



「由良様があやまる事はありませんよ。私こそ、気付かずに申し訳ありません。

   それに、学校は問題ありません。取りあえず、引越しの事もありますし、明日の月曜までは休む旨を伝えてあります。」



「・・・ありがとう。」



少しホっとしてソファーに沈み込むと、



「さ、せっかく焼いたキャロットケーキです、もう少し食べてください。」



にっこりと笑ってリンが言った。



「え・・・キャロット?」



思わず聞き返す。だって、だって、キャロット=にんじんだよね? ニンジン=キャロットだよね?



「あ・・・・」



しまったとばかりに口を押さえるリンに、



「すごーい!美味しい!ニンジンの味しない!」



叔母さん譲りの偏食グセに、早速リンが工夫をしてくれたのだと思うと、何だか嬉しかった。



そう言えば・・・



「由良、あんたの偏食グセは、そのうち誰かが現れて、そりゃーもう、厳しくおまけに健気に治してくれるから、大丈夫よ。」


と、叔母さんに何度も言われてたな・・・と思い出しつつ、



「リン、ありがとう。」



そうにっこり笑って言うと、リンは感動したような大げさな表情を見せて、



「やはり、由良様にはその笑顔が一番です!」



・・・やたらに恥ずかしい事を力いっぱい言われて、顔が赤くなってしまった。



その後すぐ、リンの運転する黒塗りのロールス何とかって車で、叔母さんと私の住んでた家に向かった・・・・






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16:00





鴻上家の屋敷から車で30分ほど行くと、


高校時代からファンタジー小説家としてそれなりに稼いでいた叔母さんが22の頃、


キャッシュで衝動買いした・・・という武勇伝の残る、中古の小さな平屋の一戸建てに着いた。


ドアを開けると、懐かしい匂いがする。


毎日帰ってた時には気付かなかった、叔母さんの匂いに気付いて、思わず涙ぐんだ。



ふと、玄関で佇んでいるリンに気付いて、「どうぞ。」と言ってスリッパを差し出すと、



「ありがとうございます。」と、リンが部屋に上がってきた。



・・・リンとこの家にいるなんて、何だか不思議。




居間、叔母さんの部屋兼書斎に、私の部屋、キッチン・・・といった広くは無い間取りだったけど、


叔母さんが亡くなって一人で住みだした時には本当に広く感じた。


今の屋敷の居間には、きっとこの家が丸ごと何個も入るだろうなと思う。


取りあえず、今は当面必要なものと、教材、大切なもの以外は明日引越し屋さんに来てもらうことにしたので、


大きなボストンバッグに教材から詰める事にした。


ふいに、視界の端で呆然と佇むリンを見て、



「どうしたの?」と、声をかると、



リンの手には、『ルルーと王室魔法使いG・くるみ原 とわ著』が握られていた。



「ああ、それね、叔母さんの本なの。結構人気あるんだよ。」



私がそう言うと、リンはその傍らにあった叔母さんの写真を見つめていた。


写真嫌いだった叔母さんが唯一気に入っていた高校時代の写真。



「私が死んだら、絶対これを飾ってよね。白黒なんかにしたら化けて出て毎日丑三つ時に起こすからね〜。」



と言っていたのを思い出す。



「・・・遠野・・さん・・・」



そう、つぶやくリンを見て、私は



「え・・・?リン、叔母さんと知り合いなの?」



慌ててそう聞いた。だって、叔母さんは確か小さい頃に両親の離婚でお父さん側に引き取られて、


その、お父さんは叔母さんが高校生の時失踪して・・・お母さん側のの名字、麻生に変えてしまったと聞いてたから


前の名前を知ってるなんて、昔からの知り合いしかあり得ない。



「・・・・・ええ、知っていますよ。たった一度しか会った事はありませんでしたが、とても良く知っています・・・」



しばらく黙っていたリンは、ようやくそう言うと、小さくため息を吐いた。



「アルコールどころか、偏食グセまであったなんて、聞いていませんでしたよ・・・。」



優しく叱るように、叔母さんの写真に向かって言うリンがとても寂しそうで、なんだかドキドキしてしまって、



「あの、えっと、冷蔵庫に烏龍茶があるから、入れるね」



思わず空気を変えようとお茶を入れる為に冷蔵庫に向かうと、



「いえ、私が致しますから」



と、リンが先に冷蔵庫を開けてしまった。




目に飛び込んできたのは、数本のカクテル缶・・・・つまりはアルコール・・・。


リンは冷蔵庫のドアを開けたまま固まってしまってる・・・。


し、しまった!忘れてた〜!と、思わず逃げ出したい気分に駆られながら、



「そ、それ、叔母さんの・・・!」



と、言うと、カクテル缶を手に取ってマジマジと見ていたリンは、



「由良様、これ、飲みましたね?」



と聞いてきた。



「叔母さんが亡くなったのが昨年なのに、製造年月日が今年の1月では計算が合いませんからね。

   それに、これは飲みかけで置いてありますね。お供えにしても不自然すぎます。・・・随分と常習犯だったようですね?」



ああ、四面楚歌ってこういうことを言うのねって思いながら、じりじりと後ずさる。


中学の時、叔母さんのビールやカクテル缶を味見して、カクテル缶に味を占めて、時々飲むようになってて。


叔母さんは、酔っ払うとなんでもOKって言っちゃうから、いつの間にか飲むのが普通になってた。


時々、酔ってない時の叔母さんに「あんまり飲むんじゃないよ生理不順になったり大変なんだからね。それに、依存しちゃうのよ。」


って注意される事もあったけど、学校帰りに飲まないと何だか物足りなくて、ついつい習慣づいてしまってこっそり飲んでた。


・・・叔母さんが亡くなってからは特に頻繁に・・・



「由良様・・・分かっていますね?」



リンはそう言うと、私の方へと近づいてきた。


昨日打たれたばかりのお尻がジン、と痛んだ気がして、思わずお尻を押さえて後ずさる。



「・・・悪い事をしたと分かっているのでしょう?それに、自分の悪戯を叔母さんのせいにしようとして。・・・悪い子だ。」



どうやら、リンは少し怒っているみたいで、昨日のように叱られるかも知れないと思うと、怖さで足がすくむ。


でも、とっさに吐いた嘘だったとは言え、叔母さんのせいにしようとしたのは事実で・・・。


リンは私を捕まえると、お姫様のように抱え上げ、居間のソファーに腰掛けた。


すぐにでもお仕置きをされるのかと身構えたけど、リンは私を抱きかかえたまま、静かに話し出した。



「由良様、あなたの身体はあなただけのものではありません。あなたのご両親や、

 将来出会う夫や生まれるであろう子供やご先祖さまや、こうやってあなたを大切に思う者、全てが影響しているものなのです。」


とても静かな口調で、優しく言われて、目の前にはリンの顔があって、


「そんな大切な身体にとって悪い事をしているなら、私はあなたを叱ります。分かるまで何度でも。」



「もし、やめたくてもやめられないのなら、いつまででも付き合います。」



「一生ダメだとは言いません、どうか、成長期の間は、避けてください。


   その先は、飲みたいときはいつでもお付き合いいたしますから。」



そう優しく微笑むリンに、私は、涙目でなんとか「ごめんなさい」と言った。



「では、自分で来れますね?」



そう言われて、立たされた私は、泣きそうな気持ちでそっと手を引かれるままにリンの膝にうつ伏せになった。



すぐに、スカートがめくられて、下着が太ももまで下ろされると、



痛くて辛い時間が始まった。



ピシャッ!


と言う音と共に、お尻に痛みが広がる。


ビクッと身体を跳ね上がらせては、「痛い!」「やだ!」を繰り返した。



ピシャッ!パチン!パァン!


あまりの痛さにジタバタと暴れながら、逃れようともがくと、



「悪い子だ・・・!」


そう言って抱えなおされ、更に痛いのがたくさん降ってきて、



思わず私は「ごめんなさい!ごめんなさい!リン、もうしないから!ごめんなさい!」


・・・と、繰り返し叫んでいた。



ようやく膝から下ろされた時には、ぼろぼろと泣きながら座り込んでしまった。


座り込んだ私を、リンはまるで小さな子供を抱き上げるみたいに軽々と抱き上げると、



「由良様は本当に軽いですね・・・。今までろくな物を食べてませんでしたね?


 ・・・冷蔵庫の中身が、アルコールとウーロン茶とプリンだけとは・・・。私は思わず固まりましたよ・・・。」


ため息混じりにそう言いながら、


「この調子では、野菜室は見なくても想像がつくくらいです。」


リンは冷蔵庫の野菜室を開けた。


中には・・・前に偏食グセを治そうと買ったまま触りもしなかった見るも無残に縮んで干からびたにんじんとピーマン、


芽が大量に出たジャガイモと玉ねぎ、シナシナになって変色したキャベツが入ってた。


そして、ウィスキーに、泡盛に、芋焼酎に、ビールがたくさん・・・。



「・・・ゆ・・・由良様・・・?」



再び固まったリンに私は慌てて訂正した。



「ち、ちがうの!これは本当に叔母さんのなの!私、カクテル缶しか飲めないもん!」



「・・・ええ、そうでしょうね。こんな親父のようなものを飲むのはあの人でしょう・・・

 初めて会った時にカクテル缶をジュースだと言っていましたからね・・・。

 それより、野菜が入っているのはいいとして、どうしてこんなにミイラ化しているんですか・・・」



どんよりとしながら言うリンに、



「だって、偏食グセを治したくて、買ったけど、お料理・・・出来ないんだもん・・・」



少し赤くなりながら答えると、



「・・・なるほど。確かに、教える人があれでは無理もありませんね・・・。」



うんうん、と頷きながらリンが言う。


「お、叔母さんも料理は出来たんだよ!チンする枝豆とか、冷凍の餃子とか、板わさとか、チンする焼き鳥とか・・・」


「・・・由良様・・・それは・・・料理とは言いません・・・大体、どうして全て酒のつまみなんです・・・全くあの人は・・・」


わなわなと震えるように言うリンに思わず私は笑った。


「・・・由良様?」


怪訝そうに首を傾げるリンに



「ごめんなさい。なんだか、分かったような気がして。」



「分かった・・・ですか?」



「叔母さんはなんでも分かっちゃうんだって言ってたって、言ったでしょ?

 死ぬ前も、泣く私に、こうなること、小さい頃から分かってたから平気だって言って笑ってた・・・。」



私がそう言うと、リンは目を見開いてひどく驚いた顔をしてた。



「ただね・・・」


「・・・・だた・・?」


「あの人に知られたら、絶対に怒るわねって言って笑ってたの。」


「・・・・・」


「あの人って誰?って聞いたら、その内、会えるわよって。

 ・・・きっと、叔母さんの言うあの人って、リンのことだったのね。」



そう言って覗いたリンの顔は、とても優しく、でもとても寂しそうで、私は胸がキュッと締め付けられるような気がした。



「ねぇ・・・リン?」



思わず声をかけた私を、リンはそっと床に下ろすと、そのまま抱きしめた。



「え?ちょ、リ、・・・リン?」


慌てて真っ赤になりながら言う私に、


「由良様、・・・私が、ずっとそばに居りますから。」


「・・・だからもう、寂しくないんですよ?」と言うリンの言葉が、小さな子供に言うそれのようで、


なんだか少しがっかりする自分に驚きながらも、

リンの胸は温かくて心地よくて、目を閉じると涙が一筋流れ落ちた・・・








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17:30





「由良様、今夜はここに泊まりますか?」



すっかり暗くなりだした外を見ながら、リンが突然そう言いだした。



「明日は引越し業者が来ますから、どの道こちらに居ないといけませんし、


 色々あってまだ荷物も入れてないでしょう?せめて、最後にゆっくりお別れをしましょう。」



でも、一つ屋根の下に、男と女が・・・・?


・・・という思いは、まだじんじんと痛むお尻に、一瞬でため息に変わった。


リンにとって私はお尻ぺんぺんして叱るようなお子様でしかないのよね・・・


・・・大体、色々あってってのは、お仕置きとかあやされてた事だし・・・。


それでも、まさかリンがそんな事を言ってくれるなんて思ってなくて、「いいの?」聞くと、


「もちろんですとも。来る途中でスーパーが近所にあるのを見つけましたし、今夜は由良様にお料理をお教えしましょう。」



「何が好きですか?」と笑顔で聞くリンに、「板わさ!」と手を挙げて答えると、


「・・・・ですから、それは料理ではありませんてば・・・」


がっくりとうなだれてリンが言う。その様子があまりに可笑しくて笑い出した私に、


「・・・由良様、さては、わざとですね・・・。」


リンは呆れ顔でそう言うと、


「そういう悪い子には、スパルタ式でお教えしますかねぇ・・・それとも、ピーマンの肉詰めでも作りますか?」


にこやかに笑ってやり返された・・・


「や、やだ!ハンバーグがいい!ねぇ、ハンバーグにしよう?」


慌てて訂正すると、やれやれとばかりに笑って、「じゃ、買出しといきますか。」と、リンが言った・・・・







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18:30



「ねぇ、リン、叔母さんとの出逢いってどんなだったの?」


スーパーからの帰り道、リンの数歩先を歩きながら振り返って訊くと、


「え、出逢い・・・ですか?」


少し、焦った様にリンが言った。


「うん、すごーく聞きたい!」


「そうですねぇ・・・・。じゃあ、晩御飯を残さず食べたら、お話しますか。」


「う・・・うん・・・・でも、それ、本当に入れるの?」


スーパーの袋の中のにんじんとピーマンを指しながら聞く。


「もちろん、ですよ。にんじんとピーマンをミイラにしたお仕置きです。」


「・・・リン、性格悪い・・・」


「それはどうも。」


「そんなんだとモテなかったでしょう・・・」


「残念ですねぇ。これでも昔はモテたんですよ。」


「うーん、聞きたいなあ〜昔の話ー。」


「大丈夫ですよ。私の料理の腕を信じなさい。」


そう笑って言ったリンの宣言どおり、ハンバーグはとっても美味しくて、


にんじんもピーマンも入ってるのに残さず食べられた。


え?おばさんの話?


それは、また今度ね。(笑)














アルコール、私が飲み始めたのも、高校の頃だったなあ^^;
今思うと、生理不順とかの原因になってたら嫌だなあ・・・(汗)^^;;
アルコールは20になってから!でないと、リンに叱られますよ〜!
ちなみに、板わさとは、かまぼこをただ切って、わさび醤油で食べるものだそうです!
居酒屋で友達が注文してて、びっくりしたので思わず(笑)
次回、おばさんのエピソード&高校生リン登場です!!!!^^






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