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由良【episode6】〜覚醒T〜
この景色を知っている。
どこまでもつながる海原に、小さな船が一艘。
これはついこの間見た夢ではなかったか。
感じるのは、不安・孤独・恐怖・のどの渇き・・・。
握り締めたネックレスのロケットに彫られた文字は Dear Joseph 。
中には赤ん坊を抱いた優しそうな赤毛の女性・・・
「Christie・・・」
クリスはまだ3歳なのに、父親を亡くして大丈夫だろうか。
リズは泣くだろうか・・・。一人で、クリスを育てていけるだろうか。
もう、立っている事すら出来ない・・・。
すまない・・・。どうか・・・。どうか幸せに・・・。
*************************
AM 4:07
自分の涙で目が覚めた。
自分が何者なのか理解するのに随分かかっって。
私は思わず飛び起きる。
あまりにリアルな情景。まるで、自分で体験したかのような感覚。
まだガタガタと身体が震える。
今のは一体・・・・。
分からない・・・。分からないけど、たった一つ、感じる強い直感。
「・・・時間がない」
夢だとどうしても思えなくて、ベッドから駆け下りて走り出した。
気付いたら、向かいにあるリンの部屋のドアを叩いていた。
「リン・・・!開けて、リン・・・!」
お願い!開けて!と、思うと同時にドアがひとりでに勢い良く開いた。
「どうなさったのです!?」
びっくりしている様子のリンが飛び出してきて、更に私の様子を見て驚いた表情を見せる。
泣きながら、手が壊れんばかりにドアを叩いていたのだから、無理もないけど・・・。
私は、リンの顔を見たとたんに、ふっと力が抜けてその場にへたり込んでしまって。
少しずつ冷静な判断力が戻ってきた。
夢・・・だったよね。・・・たぶん・・・。
「由良様!大丈夫ですか!?」
あわてふためくリンがぼんやりと見える。
「・・・リン・・・」
「なんです!?どうかしたのですか!?」
ぼんやりと。脈を計ったり、私に異常が無いか調べているリンに向かってこう言った。
「・・・のど、渇いた・・・。」
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AM 4:30
「それで、どんな夢だったんですか?」
リンの部屋のソファーに座らされて、2杯目の冷たいお水をゴクゴクと飲んで落ち着いたところに、リンが聞いてきた。
「誰かが、海で・・・遭難している夢・・・」
ようやく落ち着いて自分のしでかした事の無茶苦茶さに居心地悪く視線を泳がしながら言う。
コップを持つ手が包帯で巻かれていて動かしづらい。
さっき、ドアを思い切り叩きすぎて私の両手は切り傷と痣が出来てしまっていた。
「もっと、詳しく聞かせて下さい。」
向かいにあるデスクでノートパソコンに向かいながら、眼鏡をかけて髪を束ねたリンが言う。
どうやら、寝るときはパジャマ派らしいリンは、薄いグレーのさらりとした生地のパジャマを着ていた。
・・・バスローブにガウンなイメージだったんだけどな・・・。あと、ワイングラスに白い毛の長い猫・・・。
ぼんやりとバカなことを考えていると、
「・・・・由良様?」
怪訝そうにこちらを見ているリンと視線が合って慌てて目を逸らす。
「・・・ジョ、ジョゼフって人がね、海で遭難してて、奥さんと赤ちゃんの事を・・・考えててね・・・」
言いながら、先ほどの夢の情景が断片的に蘇ってコップを持つ手が少し震えた。
「それでね、もう立っていられないって・・・すごく、のどが・・か、渇いて・・・・
赤ちゃんのクリスティーと、奥さんのリズに幸せにって・・・」
更に震えだしながら続きを話す。何故か分からないけど、リンに聞いて欲しくて、一生懸命話していた。
いつのまに流れ出したのか、頬を涙が伝っている。
すると、不意にふわっ、と。
いつの間に隣に来たのか、リンが肌触りの良いタオルで涙を拭ってくれて。
涙で歪んだ視界が開けると、そこにあったノートパソコンの画面には、夢で見た男性の顔が載っていた。
「Joseph Ryan. 10日前にボートでクルージングに出かけて消息を絶っています。」
リンの言葉に、思わず ひっ、と息を飲んだ。
「由良様。落ち着いて。彼はどこにいましたか?」
発作に襲われたように強張る私の身体をリンは優しく抱き寄せて聞いてくる。
「知らない。どこか、海の上・・・」
困惑しながら答えると、リンの手が私の髪を撫でる。
「大丈夫です。私がついていますから。目を閉じて。 さあ、周りに、何か目印になるものはありませんでしたか?」
眠りに誘うようなリンの声に、目を閉じると、そこは、一面の白。
やがて、それが雲だと分かると同時に、私の身体は空を舞っていた。
びっくりして身じろぐと、私の右手を握って同じく空を舞うリンの姿があった。
いつの間にか私の手の包帯は解け、リンはいつものスーツ姿で髪だけを束ねてこちらに笑いかけている。
眼下に広がるのは海。
そこには小さな船が一艘。
周りは一面の水平線。
ここは夢で見た・・・思うと同時にリンの声が頭の中で響いた。
(一番近い、大きな陸地はどっちか感じますか・・・?)
「分からない。でも・・・」
そう言いながら、不意に感じた声に耳を澄ませる。
リンのじゃない。誰かもっと別の声。そう言えば、ずっと感じていた気がする。
強い、強い意志。そう、これはきっと・・・
「分かんなけど、でも、クリスとリズはあっち!」
声のする方を指差しながら叫んだ。
だって、こんなにも呼んでる。帰ってきてって言ってる・・・。
「・・上出来です・・・!」
「ちょっと待って!!」そちらの方向に向かおうとするリンの手をグッと引いて私は、船の方へと急降下した。
船の上でのびきっているジョゼフの上まで来ると、思い切り息を吸い込んだ。
「コラー!!!ジョゼフ!弱気になってんじゃない!生きなきゃ、絶対に許さん!!!」
一瞬、ジョゼフが目を見開いてビクッと動いたのとリンがびっくりした表情をしたのが目の端に映ったけど、
それにかまわずリンと一緒にクリスとリズの声のする方へ向かって飛んだ。
しばらく飛ぶと、陸地が彼方に見えて大きな船が見えた。そのまま船の真上まで行くと、
(・・・お疲れ様でした。戻りましょう。)
リンの声が頭の中で響いたかと思うと、一気に身体が吊り上げられたかのように引っ張られて、
気付いたらそこは、リンの部屋だった。
いつの間にかリンはやっぱりパジャマでパソコンを叩きながら電話に向かって英語でなにやら話してるし、
私の手には包帯がやっぱり巻かれたままだった。
今までの一瞬で、起こった不思議な出来事は、どう考えても普通じゃない事だけは分かる。
そう言えば、昨日、由羅おばあさまの部屋でみたものはなんだったんだろう・・・。
今となれば、気のせいにしては上手く出来すぎている気がする。
昨日は、ちょっと夢でも見たのかなと思ったけど、そう言えば、何で雪夜さんや、晶夜さんの名前まで判ってしまったんだろう。
それに、雪夜さんが由羅おばあ様をお仕置きしていたのが浮かんですっかりかき消されえしまっていたけど、
由羅おばあ様は空を飛ぼうとしていなかったか・・・。
そして、今、私も空を飛んでいた気がした。
考えれば考えるほどおかしなことが多すぎて。
パニックになった私にようやく電話を終えたリンが
「疲れたでしょう?ゆっくりお休みなさい。」
にっこりと笑ってそう言って。
とたんに身体がひどくだるいことに気付いて、リンに聞きたい事がいっぱいあるのに、
私はそのまま、電池が切れるようにすとん、と眠りに落ちたてしまった・・・
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