AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する





由良【episode3】〜優しい夢U〜







*************************************


「もう、大丈夫ですから・・」



清彰様の自室のベッドの上に座って、厚手のぶかぶかのバスローブに身を包んだ私は、


同じくバスローブを着た清彰様に手や足に火傷の薬を塗られていた。



子どもの肌は弱い。


速やかな応急処置だったが、いくつか赤くピリピリした場所があったのだ。


それを見咎められて薬を塗られていると言うわけだ。


清彰様がこんなに過保護だとは知らなかった。



「もう大丈夫ですから・・・」



と、何度目かの大丈夫を口にしようとした私の口を清彰様の手が押さえた



「ダメだ。・・・だいたい、私は怒っているんだからな」



キッと睨まれて幼い私は胃のあたりがきゅっと縮むような感じを覚えた。




「いいか、リン。お前の人生はお前だけのものだ。鴻上家のためのものじゃない。」



ようやく火傷の薬から開放された私は、清彰様に両手を掴まれて目を逸らせない様にされながら言い聞かせられていた。



「・・・お前のことだから、おふくろが死んだのは自分のせいだとでも思ってるんじゃないのか?

 だとしたら、大間違いだ。救った人のせいだなんて、おふくろが・・・鴻上 由羅 が一番悲しむ言葉だ。

 もし、おふくろがリンがそう思ってると知ったら、どんなに悲しむか・・・そんな苦しみは抱えるな。」



清彰様の声に俯きながら、ぽたぽたと水滴がひざの上に落ちる



確かに私は急いていた。


由羅様が死んだのが自分のせいに思えてならなかった。その苦しみから解放されたくて


早く大人になろうともがいていたのだ。



「早く大人になりたいのはよく分かるが、お前はまだ子供だ。

 私だって、昔は幼なかったし、あの頃は何も出来なかった。

 でも、あの時代が無かったら今の私は無い。

 子供時代を子供として生きられない人間は、大人になんかなれないんだ。

    早く大人になりたいなら、子供として精一杯生きてからにしろ。

   これから学ぶ事はどんな経験も何一つ無駄じゃない。分かるな?」



「・・・はい・・。」



「―よし。・・・まったく、普段いい子な奴はこれだから困る。

   一度キレたら手に負えない。まあ、今回のは半分は力の覚醒のせいだとしても、

 保護者としては、きちんと叱っておく必要があるか・・・。 

 リン、来なさい。」



「え?力のかくせいって―?」



わけが分からないまま清彰様のひざの上に引き倒されて、分厚いバスローブが捲られた。



「―やっ、何をするんですか!!」



「お仕置きだ。」



露わになってしまった尻を隠そうともがいても、幼い子どもの力では到底適うはずも無く



パチーーーン!



「やぁっ・・んっ!!」



ピシャッ!ピシャン!バチン!ビシッ!パチン!



「ひぁっ・・!・・やっ!いったぁ・・いっ!」



ピシャン!パチン!パン!パン!バチン!



「やっ!やめっ・・!ひゃん!・・や・・めてください!」



「まだダメだ。ちゃんと子供らしくごめんなさいが言えるまでだ」



ピシャーーン!



「うぁぁぁぁーん!!!」



その後、しばらくお仕置きは続いて、清彰様はたやすく幼い私のごめんなさいを引き出した。


でも、叩かれ慣れていない私のお尻は少しのお仕置きでもう既に真っ赤になっていた。



「よしよし、痛かっただろう?」



自分でも信じられないことだが、



清彰様の首に抱きついてひっくひっくと嗚咽をこらえながら濡れタオルで


お尻を冷やされて、背中をポンポンと叩かれて、


すっかり子どもと言うより赤ちゃんに近い有様であやされる羽目になっていた・・・・・。



「びっくりしたな?子どもは鴻上家ではこうやって叱られるんだ。」



「じ、じゃ、せい・・えい様も、ゆ・・ら、さまに、・・?」



治まりつつある嗚咽をこらえつつ清彰様に問うと、



「おふくろが?まさか!逆はあってもそれはありえないな。」



と、それもどうなんだという答えが返ってきた。



「じ、じゃあ、、、」



「・・・お前のじいさんにだよ。」



ポリポリと、鼻を掻きながら清彰様が照れくさそうに言う



「お、おじいさまに?」



意外な答えに私は目を丸くした。


祖父はとても温厚な人で、怒っているところなど見たことも無かった。



「リン、お前のいる西篠家は、代々鴻上家に仕える家柄だ。その当主は鴻上家の次期当主の教育係となる。

 教育係として鴻上家の次期当主となる強力な能力者にもて遊ばれないようにそれ相応の能力者で

 最も能力のあるものがそれに選ばれる。だから、西篠家も鴻上の血を受け継ぐ能力者の家系なんだ。

 そして、それは小さいうちに覚醒する。だけど、お前のは少し強すぎるな。

 おふくろの力の影響もあるだろうが、制御を覚えないとな。」



カップや食器を割った力も全てその西篠としての能力が覚醒したためだと教えられた。



「し、知らなかった・・。」



鴻上家に仕えるとは思っていたが、それがこういうことを意味していると知ったのはこの時が初めてだった。



「鴻上家の教育係の修行は厳しくて、ひとたび修行を終えたら、大体なんでも出来るスーパーマンになる。

 だからいまだにあの西篠には頭が上がらない・・・。

 しかも叱り方が平安の昔から大人として認められるまでこれだときてる・・・。

   だいたい、西篠も能力者だから気配を消しても気付かれるし子どもの頃は随分泣かされた・・・。」



実に悔しそうに言う清彰様を見て、思わず笑った私に、


さっき泣いたサルがもう笑ったなと言ってくしゃりと頭を撫でられて、



「サルだなんて、いじわるだな・・清彰様は・・」



・・悔しいような心地よい様な、不思議な気持ちで笑い合った。




**************************************************************************************




「そうか。清彰様がそんなことを・・」



「ええ。」



祖父の部屋に戻って、バスローブで帰って来た訳を話すと祖父はニコニコと笑って言った。



「随分叱られたんじゃないかえ?」



「いいえ、私のせいですから・・・」



「リンには自分で気付かせるつもりだっだが、あの方は過保護でいかんな」



ほっほと笑いながら確かに、食わせ者な祖父を垣間見て子どもながらに妙な恐怖を覚えつつも、



「おじいさま。お話があります。」



私は真剣な面持ちで切り出した。


だが、祖父は軽くため息をつくと、



「言わずとも分かる。じゃが、その道は険しかろ」



そう言った。



「ですが、決めました。」



譲らない私にやれやれと笑うと、窓の外を眺めながら祖父は言った。


ただ、その声だけはとても真剣なものだった。



「・・・よかろう。正式に決めるのは先としても、これから学ぶ事はどんな経験も何一つ無駄ではない。良いな。」



「はい。」



こうして、教育係としての修行の日々が始まった。




*****************************************************************




ドアをノックする音にハッとなって夢から引き戻されたのは清彰様からの手紙を読んで泣き疲れて眠られた由良様を


ベッドに寝かせ、明け方まで見守って、メイドに託してから1時間程後の事だった。


いつの間にか考え事をしながら眠ってしまっていたらしい。


すぐさまドアを開けると、そこには思ったとおり、メイド長の姿があった。



「由良様がどうかされたのですか!」



自分でも滑稽なくらい声が上擦っているのは認めざるを得ない。



「目を覚まされましたので、ご報告に。」



「そうですか。ご苦労様。私が代わりに参りましょう。あなたは休んで下さい。」



「はい。失礼致します。」



メイド長が去って、シャツの襟を正しながら、鏡の横の写真に目が留まる。


私は幼く、その隣には由羅様がいて、その隣には清彰様、少し離れてお爺様。


みんな、それぞれに笑っている。



さて、私は行かなくては。


清彰様が行方不明になって、一度は諦めた教育係としての使命と、


愛おしいあのお方が待っている。












由良の父、清彰初登場です。
そして、さり気なく祖父とメイド長も初登場(笑)
子リン個人的にお気に入りだったりする。だっていじりがいがあって(笑)







<前へ> <由良目次へ>  novel TOPへ  TOPへ