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由良【episode5】〜小さな目覚め〜
キラキラと、朝日を浴びて輝く湖面を眺めながら、長い髪の少女が両手を広げる
スーっと、彼女を取り巻く周りの空気が身体を包み込むように風を起こし、その華奢な身体を
ゆっくりと飛翔させた。
そして、今まさに飛び立とうとしたその時、
「由羅様・・・・!!」
後ろから聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこには、長いシルバーグレイの髪を後ろで束ねた綺麗な外見をした青年がいた。
「あら、雪夜(せつや)」
トン、と。あまり体重を感じさせない動きで地面に着地しながら、少女はにっこりと微笑う。
光の加減によっては紫に見える彼女の髪がさらりと光った。
「あら、雪夜じゃありません!」
ほんわりとした彼女の空気を叱り飛ばすと、雪夜と呼ばれた青年は少女の傍らに立ち慣れた手つきで抱き上げる。
「まあ、怒っているのね。雪夜?」
彼の首に手を回しながら、とても意外そうに由羅は言う。
「・・・当たり前です。今、空を飛ぼうとされたでしょう・・・。」
静かに、怒りを鎮めるようにわざとゆっくり言いながらも、屋敷に向かってずんずんと歩く。
この屋敷は、鴻上家の別荘で、普通の人間が入り込めない森の奥の結界を張り巡らされたところにある。
特殊能力を受け継ぐ鴻上家の当主であり、初代の巫女と同じ治癒能力を受け継いだ由羅は、
その神の御業とも言える治癒能力の代償に自分の生命力を犠牲にしていた。
このところ、力を使いすぎて消耗していた為、大事を取ってこの別荘で静養していたのだ。
「空を飛ばれるのには今のあなたでは消耗しすぎるからとおぶんしないとお約束したばかりではありませんか?」
静かに叱りながら、屋敷へと入っていく。
「ごめんなさい。あまりに湖面が綺麗だったから、つい。」
天使のような笑顔でこう言われると怒りがどこかへ持って行かれるような気がする。
本当に、暖簾に腕押しと言うか、ぬかに釘と言うか。
「ダメです。こちらに来て、もうこれで3度目です。次はありませんよと申し上げたはずですよ。」
「・・もしかして、お仕置きなの?」
きゅ・・・と首に回された手が強張るのを感じて、その顔を覗き込むと、少し、怯えた表情をしている。
まったく、これでは天使をいじめる鬼か悪魔のようだといつも思う。
だが、ここで心を鬼にしなければ、この方なら何度でも同じことを繰り返すだろう。
空を飛んでいる最中に力尽きてしまえば大変なことになる。そんな目に遭わせるわけにはいかない。
「もちろんです。今日と言う今日はたっぷりとお仕置きさせていただきます。」
わざと冷徹にそう言うと、由羅様は俯かれてしまう。
何故こんなにいつも後ろめたい気分になってしまうのかと小さくため息をついたところへ、
「あれ?兄さん?由羅様も・・・」
双子の弟の晶夜(しょうや)だった。
私と晶夜は一卵性双生児だけあってよく似ている。だが、髪の色だけどういうわけか全く違うので
見分けがつきやすい。
私の髪は、銀色に近い濃いグレイをしている。晶夜のは艶やかな漆黒だ。
それ以外はまず判別がつかないだろう。
西篠家特有の切れ長の目に、グレイの瞳、細面だか長身で、意外にしっかりとした身体つきまで、全く一緒なのだから。
「なにか・・・・・あ、いやどうぞごゆっくり・・。」
なにかあったのかと言いかけて、抱きかかえられながらしょげ返っている由羅様を見て状況を察したのか
晶夜はそのままキッチンの方へと歩いていってしまった。
多分、お仕置きの後の由羅様のために、何かお菓子でも作りに行ったんだろう。
わが弟ながら、女性の扱いにかけてはかなわない。
さて、教育係としての顔に戻った私は、由羅様の部屋に着くと、ソファーに腰掛けてそのまま由羅様を膝の上に乗せた
お仕置きをすると言う時、由羅様はびっくりするほど抵抗しない。
「・・や・・・」
それでも、白く長いスカートをめくり上げると、微かに声を漏らし、恥ずかしそうに小さく首を振った。
「もう3回目ですからね。容赦しませんよ。」
白い下着の上からお尻に手を当てながらそう言うと、小さく「ごめなさい・・・」と声が聞こえた。
全く。これでは容赦しないわけにいかないじゃないか。
とにかく、なにがごめんなさいなのかをきちんと言えたら赦す事にしよう・・・と、さっそく甘くしてしまうあたり、
教育係としてどうなんだと思いうが、それでも少し厳しく左手を振り下ろした。
パチーン!
「やっ・・・」
パチン!パン、パン、パン、パン・・・
まずは、いけない事をした分、きちんとお尻全体を暖めて差し上げることにした。
しばらく叩いていると、
「や、あーん、・・・痛い・・・」
流石にまだ15歳の少女だけあって、可愛らしく泣き出してしまった。
いつも、この声を聞くとすぐに赦してしまいたくなる衝動に駆られてしまう。
だが、そんなことではダメだと自分に言い聞かせるように、私はお説教を始めた。
「お仕置きなんですから痛いのは当たり前ですよ。それより、何故叱られるのか分かりますか?」
パン!パン!と、お尻を叩きながら由羅様に問うと、
「空、飛ぼうとした・・・・からぁ・・・」
泣きながらそれでも精一杯に答える様がまた、健気で手を止めたくなる。
「何故、飛んではいけないんでしたか?」
パチン!
叩くと由羅様は微かに身体を震わせて小さく声を上げた。
「約束・・・したからっ・・・」
「そうですね。でも、約束をしたのは、由羅様のお身体の為に今空を飛ぶのが危険だからです。それは分かりますね?」
パチンパチン!と叩きつつも、助け舟を出してしまうあたり、我ながら甘すぎる。
「だって、あんまり湖が綺麗だったからつい・・・」
「そうですね。では、もう二度とつい、危険を冒してまで飛びたくならないようにしっかり約束しましょう。」
そう言いながら下着を膝まで下ろすと、可愛そうにすでに少し赤みを帯びたお尻が現れる。
あと少し。心を鬼にして手を振り上げると、
「いやぁっ・・・」と由羅様の左手がお尻を庇おうと伸ばされた。
その手を捕まえると、少し厳しめにまた手を振り下ろす。
パチン!ピシャッ!ピシャン!・・・
「ああっ・・ごめ・・・なさい・・・!」
ピシャッ!ピシャン!パチン!・・・
「もう、危険なことしない・・・から、約束、破らないからっ・・・」
「分かりました。では、あと10我慢して下さい。」
そう言って私はきっちりと10発、由羅様のお尻を叩いた。
そして、今、由羅様は私の膝の上で抱きかかえられながらあやされている。
「雪夜・・・ごめんなさい。」顔を覗き込まれてまだ目が赤い由羅様が言う。
「もう怒ってませんよ。」にっこりと笑ってそういうと、
ふんわりとした笑顔が返ってきた。
やはり、由羅様はこの笑顔が一番だ・・・。
そう思っていると、
「ねぇ、雪夜。」
「はい?なんです?」
「ちょっと、目を閉じて?」
「・・?こうですか?」
目を閉じた次の瞬間、ふわっ・・・と。
由羅様の唇が私の唇に触れた。
慌てて目を開けると、ふんわりと笑った由羅様が言う
「これくらいの悪戯は赦してくれるでしょ?」
真っ赤になっているであろう私は、慌てて
「まったく、あなたという人は!こういうのは好きな男性にするもんです!」
「じゃあ、大丈夫ね。雪夜のこと好きだもの。」
「そういう好きじゃなくてですね・・・」
言いかけた私の顔を覗き込んで、由羅様は今まで見たことも無いような悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「雪夜って、案外鈍いのね?」
そう言われてあわあわと言いごもっていると、
ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。由羅様、兄さん、レモンのタルトを焼いたんだけど、いかがですか?」
にっこりと笑いながら入ってきた晶夜に、固まったままの私の膝に座った由羅様は、
「まあ、素敵!晶夜のお菓子はいつも絶品ですものね。」
と言ってタルトを切り分ける晶夜の方に走って行く。
「ほら、兄さん、お茶が冷めるよ?」
晶夜が華麗な手つきでテーブルで紅茶を注ぎながら言う。
「雪夜、とても美味しそうよ。ちょうどお茶の時間だし、お茶会にしましょ?」
ふんわりと満面の笑みを浮かべて私の手を取る由羅様に、
まったく、この方にだけは敵わない・・・と、思わず苦笑した私は、ソファーから立ちあがり、
由羅様を軽くエスコートして、テーブルへ向かった。
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リンにお説教されて、しょげ返って廊下を歩いていると、ふいに呼ばれた様な気がして、
気付いたらまた、由羅おばあさまの部屋に来ていた。
そして、身体が動くままに由羅おばあさまのお部屋の絵の下の花瓶が生けてある小さなテーブルに
付いている引き出しを開けると、その中には、何枚かの写真があって。
毛の長い猫の写真や、太ったゴールデンレトリバーの写真に、何故かリンの写真。
そして、由羅おばあさまとリンが2人もいる写真があったから思わず触れたとたん、
一気に私の頭の中に入ってきた光景に私はしばらく唖然としていた。
だって、一瞬、由羅おばあさまになってしまった気がした。
「由良様・・・またここにいらしたんですね。」
振り返るとそこにはリンがいた。
リンにこの写真を渡すと、それを受け取り、優しく笑いながら見ている。
私みたいにいきなり色んな光景が流れ込んできてはいないようで。
「これは、由羅様と、私の祖父と、その兄でこの後由羅様の夫となられた方の写真です。」
え、と。びっくりして慌てて聞いた
「え、雪夜さん由羅おばあさまと結婚したの?・・・だって、教育係だったんでしょ?」
すると、リンは目を丸くして、どうしてそれを・・・と言うなり、
「何か見えたんですか?」
と、両肩を掴んで聞かれた。
「うん、でも見えたのは、由羅おばあさまが写ってた写真だけ。」
「そうですか・・・。」
そう言いつつも、リンは少し考え込んでいるみたいで。
「でも、あの二人が結婚したんだ・・・」
思わずにんまりと笑うと、我に返ったようにリンが
「そんなことより!お探ししたんですよ?この屋敷は広いので別の棟に行く時はご一緒にと先ほど約束したばかりでしょう?」
あ、やばい。ちょっと怒ってるみたい。
「昼食のあと、・・・少しお説教をしすぎたかとレモンタルトを焼いてお持ちしたらいらっしゃらないから、どれだけ心配したか。」
「え、レモンタルト!リンが焼いたの?」
「ええ、まあ、そうですが、それより、今日した約束を即日破られるとは・・・」
雲行きがあやしくなる前に、正直に言うことにした。
「ごめんなさい。最初はここまで来るつもりじゃなかったんだけど、なんだか呼ばれたような気がして・・・。」
「呼ばれた様なですか・・・」リンはそういうと、写真の由羅おばあさまを見て
「まったく、仕方のない人ですね・・・」とつぶやくと、
「・・・それでは、罰として」そう言いながら私を抱き上げ
「このままお部屋まで連行致します。お茶会にしましょう。」
優しくにっこりと笑った。
そうそう、リンの焼いたレモンタルトは本当に美味しくて絶品だったの!
由良、ついに鴻上家の能力に触れてしまいます。
でも、彼女的にはまだなんにも気付いてません。
そして、雪夜。初登場です。この人、清彰のパパなんですが、清彰とのエピソードも書きたいなあ。
次回、ついに由良の能力が・・・。
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